2008年3月24日月曜日

済州島自然農業畜産視察ツアーに行ってきました(4)

 複合経営の良さを最大限活かす




  次に訪ねたのは自然養豚に取り組む呉義宣(オ・ウィソン)さんの農場です。経営規模は母豚30頭の一貫経営です。豚はLWDの白豚です。黒豚をやらないのか聞いてみると、枝肉価格が10%ぐらいしか高くないので魅力がないとの事。済州島の在来種の黒豚も、肥育日数がかかる、産仔数が少ないなど、鹿児島の黒豚などと同じだそうで、これでは農家はなかなか取り組めないと思いました。
 


 豚舎の前に「無抗生物質認証」の看板が立っていました。これは餌に抗生物質は使っていません、という国立食品検査院の認証です。日本よりいち早く有機農産物の認証制度を始めた韓国では畜産分野の認証も始まっています。

 「この認証をもらっているのは済州島で私一人です。この認証があるので、豚舎からでた堆肥をみかん園に使っても有機農産物の認証がもらえるんです」と呉さん。餌は抗生物質や添加物のない指定配合です。検査は一年に一回くらい来るのか聞いてみると「いつ来るかわからない。突然来る。それじゃないと意味ないから」との事。

  豚舎の中まで入らせてもらいました。一般の豚舎では嫌がられますが、自然養豚の豚舎では土着微生物の活用で、病気などの心配はあまりしません。発酵床で豚がのびのびと動き回っています。冬期のせいか、豚房の半分はサラサラしていませんでした。しかし呉さんによると何の問題もないそうです。自然養豚に取り組んで14年の経験からくる自信でしょう。




 無農薬栽培19年の柑橘園

  豚舎の隣はハウスの柑橘園です。日本で言うデコポンや清美、はるみなどが植えられています。写真は昨年11月国際大会で訪ねたときの写真です。びっしり実った樹をご覧ください。こんなに実らせて大丈夫?と聞くと、問題ないそうです。自然農業豚舎から出る極上の堆肥を入れることで、これだけの力が出るのでしょう。


 1キロ5,000ウォン(約550円)で生協などに出しているそうです。普通のみかんは生産過剰で1キロ1,000ウォン(約110円)にしかならないそうですから、柑橘農家はデコポンなどにどんどん切り替えています。
 「私は化学肥料や農薬を使わなくなって19年になります」と笑顔の呉さん。見学者から「ほーっ」と感嘆の声があがりました。倉庫から清美やはるみを持ってきてくれました。試食させてもらいましたが、甘くてジューシー、香りも最高です。栽培技術の高さに感心しました。
 また、有畜複合経営の良さを改めて認識しました。畜産経営で年間を通して基礎的な収入を得、そこから出る極上の堆肥を果樹園に回すことで、高品質と多収穫を実現しています。例えば豚を出荷した後の豚房でボカシ肥を作るといいボカシ肥が出来るそうです。すでに土着微生物が多様に存在する豚房は、仕込むには最高の環境です。

 また、案内してくださった済州支部会の呉弘富会長さんの話では、最近は土着微生物をわざわざ山から採取する必要がなくなったそうです。果樹園の畑から土を持ってくれば、そのまま真っ白の菌が広がって培養できるそうです。会長さんも自然農業に取り組んで10年以上になります。続ければ続ける程、土が良くなり、樹が良くなっていくのを実感しているそうです。
 「土や樹が出来るまで、最初の3年、頑張らないとだめ。そこを過ぎたら自然農業の良さを実感できる。そこまで農家をひっぱってあげないといけない」との事。これからの課題は、新しく自然農業に取り組む人たちに対して、どの様に指導していくかという事だそうです。

2008年3月21日金曜日

済州島自然農業畜産視察ツアーに行ってきました(3)


  二日目の午前中は趙漢珪先生による自然農業の畜産についての講義でした。畜舎環境、餌、成長点の潜在能力を引き出す等々、自然農業の特徴を養鶏、養豚、繁殖牛、肥育牛に渡って総合的に話してくださいました。

「はだかの共和国」に入国?

  講義が終わるとすぐ自然養鶏に取り組む金潤洙(キム・ユンス)さんの農場へ向かいました。金潤洙さんの農場は入り口にロープがはってあって、「はだかの共和国」という看板がかかっています。笑顔で迎えてくれた金さんが「いらっしゃい。この共和国では私の言うことに従っていただきます。それが出来ない人は帰っていただきます」と言います。つまり、見学にあたって鶏をびっくりさせないために「赤い服を着ない」「大声をあげない」などの注意事項や、インスタント食品や添加物を持ち込まない、などの食を大事にするための約束を守ってほしいという事なのです。

 金潤洙さんの取り組みがKBSテレビ(日本のNHKにあたる)で紹介されると見学者が次々訪れるようになり、昨年はなんと一万人も訪れたそうです。また地元の幼稚園や小学校からも体験学習で勉強しに来るそうで、その経験から色々な人たちが来ても鶏たちがストレスを感じないように上記のようなルールを設けるようになったのでしょう。


  家の前に白い流木のような木が山のように積まれて、何やら芸術家が作ったオブジェのようです。昨年の台風で海岸に打ち寄せられたり、畑から除去したりして集められた木だそうです。彼はそれを子ども達が学習に来たときに積ませて教育の一つに活用しているそうです。「これで平均感覚を育てたり、物を創る喜びを教えることができます。台風の残骸を邪魔にするのではなく、あるものを活かす。これが自然農業の根本論理です」と説明してくれました。

 見学の前にお昼ご飯です。今回見学の申し込みをしたときから「ぜひ、うちで食事をしてください」との申し出があり、お願いしていたのです。家の中に入ると、様々な野菜がすでに茹でたり、きざんだりして用意してありました。「うちでは食べるものは調味料を含めてほとんど自家製です」と金さん。野菜サラダの実演を始めました。大きなボールに天恵緑汁、玄米酢、味噌(もちろん自家製)塩、コショー、それにナッツ類や雑穀類、干し椎茸の粉などが混ぜ込まれます。そして韓国ですから唐辛子やコチュジャンが最後に少し。これにきざんでおいたサンチュやレタス類を入れてあえます。自家製のドレッシングが独特です。
  

  料理は鶏の丸蒸し(烏骨鶏)、雑穀入り玄米ご飯、スクランブルエッグ。さらに特別サービスとして「友達にもらった」という有機ワインが出てきて、一同大喜びで乾杯!卵は塩も入れていないそうですが、味が濃くておいしかったです。楽しく食事が進みました。





 お腹いっぱいになって、いよいよ見学です。鶏舎に行く前にまず、家の前の浄化装置の説明です。金さんの家では台所やトイレから出てくる排水をすべて自家装置で浄化しています。家の前の池に様々な草が植えてあって、微生物の働きで浄化するのです。
 ポイントは池の中にある岩石。済州島は火山島ですから石は溶岩が冷えた火山岩。ですから石に穴がいっぱいあって微生物の棲家が多いのです。そしてもう一つにポイントは植えてある植物だそうです。浄化された池の水は、日照りが続いて飲み水が足りないときは鶏たちに給水されます。
 烏骨鶏やアヒル、黒ウサギなどが一緒に飼われていました。これらもお客さんたちに供されるのでしょう。

 発酵床で元気な鶏たち 

  鶏舎では(鶏種を聞きもらしたが)ボリスブラウンのような赤玉系の鶏が飼われていました。現在2,000羽いるそうです。もちろん臭いは全然ありません。同じく床の土を掴んで臭いを嗅いでも臭いません。金さんが排泄したばっかりの鶏糞を持ってきました。その鶏糞も臭いません。餌や床を通して土着微生物が鶏の体内に入るので、腸内できれいに消化されるのでしょう。改めて驚きです。
 鶏たちもとても静かで落ち着いています。鶏舎内で平均して散らばっています。床が平均して発酵している証拠です。ただし、止まり木の下は固まって積み上がっていました。「済州島の冬はほとんど曇っていて晴れ間がありません。気温が低いので土着微生物の働きも鈍く、鶏舎の床の湿気がとれなくて管理が完璧にはいきません」との事。


  倉庫では土着微生物で発酵させた栄養液が大きなタンクに作られていました。冬場などの青物不足のときに準備して、葉ものの発酵餌も漬け込まれていました。畑では各種野菜がそれぞれ作られていました。極上の鶏糞があるので、肥料を買う必要はありません。天恵緑汁などを作る黒砂糖を買うぐらいだそうです。それも最近は多くは必要なくなってきたそうです。
 食堂が別に作ってあり、中に入ると使用する自然農業の資材が展示してあり、壁には様々な写真が貼ってありました。KBSテレビ「環境スペシャル」で取材されたときに使用された写真は、一般の飼い方をした鶏と金さんの鶏を解体して内臓を比較したものでした。


こんなに違う自然養鶏の内臓

  さっそくそのデータをいただきましたので紹介します。同じ鶏種で同じ月齢のもので比較したそうです。右が金さんの鶏です。腸の長さが違いますね。

 













  左の一般の飼い方の鶏は脂が多い。自然農業の鶏はレバーの色がきれいですね。砂のうの大きさが違いますね。中に大きな石が入っていて疎飼料を消化しているのがわかりますね。
 雛のときから餌のやり方や環境が全然違いますから、当然内臓もこんなに変化しているわけです。

2008年3月19日水曜日

済州島自然農業畜産ツアーに行ってきました(2)


臭いのない牛舎にびっくり!

 金炳杉さんは繁殖牛を現在22頭飼っています。牛舎の前が放牧地で、村の14農家と協同使用しています。一年に1頭5万ウォン(約5,500円)で放牧できるので、助かっているとの事でした。
 牛舎へ行くと、まったく臭いがありません。牛独特のあの臭いさえないのです。床から床土を掴んで鼻に持っていき、嗅いでみてもまったく臭いません。参加者はそれぞれ手に取って確認しました。

 床はホコホコしていてきれいなものです。だからお腹に、いわゆる「ヨロイ」といわれる糞がこびりついてもいません。きれいなお腹です。体もつやがあって健康そのものです。牛がのんびりと過ごしています。

土着微生物のパワーに改めて驚きました。
  金炳杉さんがスコップで床を掘ってみせてくれました。少し掘ると堅い層のようになっている部分があります。発酵層の上に重い牛が乗るので固まって層が出来ているのです。牛舎は隣との仕切りの柵が開くように作られていて、牛舎の棟全体を通して小さなパワーショベルで切り返し作業ができます。牛は豚と違って自分ではあまり掘り返さないので、人間がその分補ってやる必要があります。しかし、その作業も1~2ヶ月に一度ぐらいでいいそうです。

 昨年の国際大会で展示されていた豚を、牛舎の一角でそのまま金さんは飼っていました。済州島の在来種で黒豚です。みかんをあげると喜んで食べていました。以前豚にみかんをやると脂身が黄色くなって販売に困るという話を聞いていたので、大丈夫か聞いてみると、この豚たちは近所の人たちが直に買うので何の問題もないそうです。すでに予約済みだとか。
 豚がいるところもきれいに発酵して床はサラサラです。もちろん、ここの床も掴んで臭いを嗅いでも臭いません。土のような匂いがかすかにするだけです。もちろん豚も皮膚がつやつやして健康そのものです。

 自然農業の牛舎では下をコンクリートにして、土着微生物、オガクズ、土、自然塩で作った床土を30~40センチ積み上げるのが基本ですが、済州島ではオガクズが手に入りにくいので、金さんは土着微生物④番を徹底して床にまくことで牛糞を発酵させています。床は土のままです。
 牛舎を建てるには堆肥舎があることが条件なので、牛舎の横に堆肥舎を作ったそうですが結局必要ありませんでした。そこは現在、土着微生物④番の保管場所になっています。また牛舎の床を取り出しーこれは極上の堆肥ですがーこれをコンベヤーで運んで袋に詰める作業場になっていました。堆肥の中からセミのサナギがいっぱい出てきました。韓国ではこれは漢方薬でもあるそうです。金さんは貴重なタンパク源ということで豚にやっていました。

2008年3月17日月曜日

済州島自然農業畜産視察ツアーに行ってきました(1)

  3月7日から9日、韓国済州島畜産視察ツアーに行ってきました。自然農業の養鶏、養豚、繁殖牛の現場をつぶさに見て来て、改めて自然農業のすばらしさ、土着微生物のものすごいパワーに驚きました。畜産と組み合わせた柑橘や野菜栽培を行っている会員農家の方の取り組みなど、簡単に紹介するにはもったいないので、何回かに分けて紹介します。

  飛行機便の関係で私は前日6日から済州島へ行きました。ちょうど済州島の自然農業支部の総会で、私も参加させていただきました。
 自然農業協会済州支部会の会員は45名。会長はハウスで柑橘(清見など)を栽培している呉弘富(オー・ホンブ)さん。今回は自然農業の畜産現場を見るのが主な目的だったので、視察先ではなかったにもかかわらず、私たち一行のために同行して色々と気をつかってくれたり、最後の日は市場見学や観光地の案内までしてくださいました。こんなにしてくださるのは、柑橘交流会を毎年行ってきたせいで、技術的な交流を通して友達付き合い、親戚付き合いのようになっているからです。有難いものです。帰りには奥様手作りのキムチをどっさりいただきました。

資材を大事に保管

 さて、7日のお昼頃済州空港に日本の各地から参加者の方たちが集まりました。私を入れて全部で9名です。西帰浦で遅めの昼食をいただき、最初の見学先である金炳杉(キム・ビョンサン)さんの農場を訪問しました。
 金炳杉さんは今年31歳で、自然農業に取り組んでまだ四年目ですが、非常に熱心に、徹底して実践しています。牛舎に入る前に、まずは自然農業の資材倉庫の見学です。倉庫にびっしりと置かれたカメにまずびっくり。天恵緑汁や漢方栄養剤を仕込んだカメの行列です。一段上には1トンは入ろうかという巨大なかめが置かれていて、魚のアミノ酸が仕込んであるとの事。
金炳杉さんがかぶせてある和紙をはがして「どうぞ匂いを嗅いだり、味を見たりしてください」と言う。皆、人差指をかめに入れて味を見る。倉庫中に甘い発酵臭がたちこめている。さらに卵の殻を玄米酢で溶かした水溶性カルシウムの大きなビン。これはミネラルウォーターを入れるタンクを活用している。奥を見ると黒砂糖の袋が山のように積んである。
昨年国際大会の時に見学に訪れたときは、済州島を襲った100年ぶりといわれる大型台風にやられた後で、屋根を修理中でしたが、それもきれいに補修されていました。床はスノコになっていて、土の良さを保ちつつ空気が下からも通り抜けられるように工夫されていました。自然農業にとって大切な手作り資材の保管に、とても神経を使っているのがわかりました。



 干草の保管ハウスと農業薬水

 次に見させていただいたのは干草を保管している大きなハウスです。干草はかびたり、腐ったりしてはおしまいです。その為まず、ハウスの構造は自然農業式の天窓のあるハウスで、通気性のよいものになっています。天窓から雨が振り込んでも大丈夫なように、天窓のすぐ下に雨どいを取り付けてあり、雨は外へ流されます。ハウスの鉄骨は海からの潮風にも強いものを使い、ビニールも丈夫なものを使用していました。
 次は農業薬水です。地下水は酸素が少ないので、飲み水としてずっと使用するのは良くないそうです。そこで地下水をポンプで一旦汲み上げ、上から落とし、酸素を取り込む仕組みを作ってありました。水が落ちる先には、様々な岩石がざるに入っており、そこに当たることで岩石から天然ミネラルを抽出しているのです。そのハウスの構造も天窓をつけて、その下は雨どいが設置されていました。





 さあ、いよいよ牛舎の見学です。

2008年3月5日水曜日

畜産専門講習会を受講してきました



 2月25日から28日まで、韓国で自然農業畜産専門講習会を受講してきました。場所は自然農業生活学校で、忠清北道槐山(ケサン)にあります。仁川国際空港から車で3時間くらいの距離ですが、今回は一人だったのでバスでの移動でした。2回乗り換えて最後はタクシーに乗ってやっと到着。空港から5時間かかっていました。
 期間中はほとんど雪で寒かった。写真は生活学校の校庭に止めた参加者の車に積もった雪の情景です。暖房は食堂や談話コーナーでは練炭ストーブが使用されており、宿泊の部屋はオンドルで暖かかったです。



  参加者は67名で、韓国全土から集まっていました。中にはアメリカからの参加者もいて、私が日本からの参加と国際的でした。皆趙漢珪先生の講義を熱心に受講しました。今回は養鶏・養豚だけでなく、繁殖肥育牛も含めての内容でした。

 「エサは80%自給しよう!」「草は30%エサに」「土飼料(土着微生物④番に乳酸菌、酵母などを混合したもの)を25~30%入れる」「微生物や微量要素で健康を保つ」などなど、これからの畜産に取り組む上において大切な話が盛り沢山でした。牛にミネラル液や玄米酢、天恵緑汁など自然農業の各種資材を混合した液を散布して皮膚(汗腺)から吸収させ、肥育を促進させる処方箋もあり、とてもおもしろかったです。女性のお化粧と同じで効果が大きいそうです。


 
 参加者の方はすでに自然農業式で畜産をしている人は一人もなく、一般的な方式で鶏や牛を飼っていたり、これから畜産に取り組む予定の人たちでした。中には取り組む作目を求めて、基本講習後、米や果樹や畜産の専門講習会を次々と受けているつわものもいました。