2009年4月1日水曜日

ブラジルへ行ってきました(3)

モイゼース氏の自然農業の取り組み


 3月6日 マカパの向かいにあるサンタナ島へ向かいました。雨のため船の中で少し待機した後、10時頃モイゼース氏を訪ねました。モイゼース氏はサンタナ農業改良普及所の畜産技師であり、獣医の資格も持っている方です。
 ここに農務局農業技師、RURAP(アマパ州農業改良普及所)の普及員、農林局の技師など10人程集まり、一緒に見学しました。モイゼース氏は養鶏など他の畜産も行っているが、この日は養豚を中心に見学しました。












  氏が作った天恵緑汁と土着微生物の元種も見せてもらいまし。天恵緑汁は一つの材料だけで仕込むのが基本ですが、氏は葉っぱや果実など様々混合して仕込んでいました。



















 モーゼス氏の豚舎は従来型のオガクズ豚舎でしたが、高松氏に自然農業式養豚の話を聞き、さっそく2週間前発酵床に切り替えたそうです。臭いもしないし、餌代が30%削減できたと喜んでいjました。
 発酵床は雨のせいもあるかもしれませんが、やや湿度が高いようでした。原因の一つは発酵飼料を床前面にまいていることだと思いました。発酵飼料だけでなく、イネ科の草がそのまま入れられており、それらの食べ残しが豚の糞と一緒になって、分解されずにそのまま残っていました。恐らく、「床がエサに変わる」という事で床を全部エサ場にしてしまったせいでしょう。そこで、「ここは豚の生活の場だから、台所もあればリビングルームもあって、トイレもあるという区別が必要だ」という話をしました。

 次に自家配合しているエサ作りの小屋を見学しました。ここで様々な果実の種を機械で破砕し、材料として活用されていました。私はこれに土着微生物の元種と土を混合して発酵させたものを、エサの10~15%入れても豚の成長に差し支えない、という提案をしました。










 次にすぐそばの森の中に土着微生物の採取を行っている現場を見学しました。椰子の葉っぱの覆いを取ると、ご飯を入れて仕込んだ木の箱がありました。
  ピンクの紙のふたをとるとご飯は表面が薄い黄色のおかゆ状態になっていました。日本で同じ様に仕込むとご飯の粒は残っていて、その粒を白い菌が覆った状態になります、ブラジルは気温も湿度も高いので、三日でこの様になってしまったのかもしれません。モイゼース氏に聞くと、ご飯の材料は細かいくず米を使用したとの事なので、そのせいもあると思いました。「土着微生物は森の神様なので、ご飯をささげる気持ちで良い米を使用した方が良い」と話しました。また、この状態で培養しても使用できるので、すぐ引き上げるように話しました。


 次に発酵飼料を仕込んでいる小屋を見学しました。屋根つきのコンクリートの箱に様々な葉っぱや果実、茎などが刻まれて籾殻と混合されていた。天恵緑汁の絞りかすも入れられており、甘酸っぱい香りがしていました。
 発酵飼料の仕込み方として、米ぬかと混合し、袋に入れて口をしばる嫌気発酵と、土着微生物の元種を混合し、切り替えしていく好気発酵があるが、ここの場合、そのどちらでもない点が問題だと思ったので指摘しました。籾殻はそのままでは発酵しにくいので良くない事と、コンクリートの箱の中に雨が振り込んだせいか、水があるのが問題だと思いました。材料を切り返して、屋根はありますが、上を何かで覆う必要があると思いました。


 最後に母豚舎を見学しました。一つの部屋では子豚七匹が母豚のおっぱいを元気よく飲んでいました。ここは床がコンクリートで発酵床を積み上げたようだが、薄すぎて湿気が多かったです。母豚の糞尿の量を考えると、発酵床の層を20~30センチは積み上げる必要があるのではないかと思いました。
 また、板でかこってあったので、換気が悪いせいもあるかと思いました。屋根に10~15センチ直径の丸い穴でもいいので、一列に開けられないか尋ねましたが、雨が心配だという答えでした。多少の雨の降り込みより、換気を優先した方が良いのではないかと思いましたが、当地の事情もあるので今後の課題としました。


 見学が終わって、午後からは州の企画局で自然農業のセミナーを行いました。午前中に見学で集まった人たちとモイゼース氏が参加しました。セミナーは自然農業の基本の話をし、後はパワーポイントで自然農業の自家製資材作り及び養豚について説明しました。参加者の方々は、特に自然農業による農産物のすごさにびっくりしていました。
 最後に自然農業の取り組みは個人的に行うより、行政などの支援を得て、組織的に行われる方が効果があるという提案を行いました。アマパ州は州政府として取り組みを考えると言っていました。今後が楽しみです。

2009年3月31日火曜日

ブラジルへ行ってきました(2)



アマゾンの自然養豚


 ご覧のように、こちらで建てた豚舎は自然農業の基本の形式とは違っています。 一つの村で7ヵ所、もう一つの村で繁殖用の豚舎を見ましたが、様々です。

  自然養豚に取り組むには、基本講習会の受講が前提ですが、それが出来なかったので、良い豚舎の環境作りについて話をしました。



















 (1)太陽光線  一年中暑い所ですから、どうしても屋根で大きく覆ってしまいます。自然農業では天窓があるので、一日を通して太陽光線が隅から隅まで動き、太陽光線の当たらない所がないように出来ています。それは太陽光線に勝る消毒はないからです。


  また、陰と陽の割り合いが7:3に保つのが、微生物の環境にとっても大事であり、豚にとっても、陽の当たる所や日陰の、好きな場所で過ごす事が出来るので良いのです。

 こちらでは住居と同じブスー椰子で屋根を葺いていますが、ひさしが長すぎる所は、陽が入るようにした方が良いと言いました。










(2)換気  豚にとっても、微生物にとっても最も大事な換気に関してはほぼ問題ないと思いました。天窓はなくても、小屋が小さい上に、この地域は川風が常に吹き渡っているからです。

(3)発酵床  自然農業の最大の特徴である発酵床は、今のところ問題ないように思いました。基本通り「オガクズ10:土1、それに自然塩0.3%」の配合できちんと準備して作りました。

 しかし、この地域は水が浸水してくる地域なので、その影響がどう出るか、今後の観察が大事です。この地域で豚舎を作るに当たって、自然農業の基本である「土と縁を切ってはいけない」という事と、排水の問題をどうしたらいいか迷いました。結局、この地域に昔からある「マロンバ」と言って、浸水してきたときに豚など家畜が非難する板で囲って土でかためたものを土台に利用するという事にしました。つまりマロンバの上に発酵床の豚舎を建てたわけです。

 雨期を経験して、この発酵床がどうなるか。また、豚が出荷する程大きくなったときに、この小さな豚舎で、発酵はうまく行くのか。心配な点はあります。

(4)水  今までは放し飼いだったので、豚は適当に自分が選んで飲んでいましたが、舎飼いにしたので、毎日きれいな水を用意してやらなければいけません。その辺のところが、まだ徹底して行われていないようでした。水の器にえさや青草が入って、水が濁っている所もありました。




 しかし、豚舎によっては、基本通り、エサ箱と水飲み場を離して設置し、豚が運動するようになっていました。








(5)エサ  「自然農業の豚舎にすると、床が発酵してエサに変わる」という部分が、かなり大げさに伝わったようで、青草類が豚舎全面に投げ込まれ、それを豚が踏みつけて床面がきたなくなっている所もありました。

 また、今まで放し飼いだったので、毎日きちんとエサをやって太らせるという感覚がなじんでいないのか、充分にエサをやっていない所もありました。日本では、エサのやり過ぎはいけないという事で、えさは一日一回です。「一回満腹一回空腹」の原則と言って、不断給餌ではなく、胃腸を休ませる事の重要性を言います。しかし、こちらでは空腹は充分なので「満腹にさせる事」が大事なのです。


 こちらでは食品残滓などはありません。しかし、アマゾンの森には様々な果実がありますし、バナナの葉や茎も利用できます。また、川にはホテイアオイが繁茂しており、エサの材料には事欠きません。
 写真の黄色い機械は、果実や種を砕く破砕機です。



 飼料用のトウモロコシの栽培を行っている人もいました。また、川の水が浸水してきたときに大量の魚がくぼ地に溜まり、水が引いて、そのまま干上がる事があるそうです。それらを干して魚粉にすれば、年間を通してタンパク質の材料になると思います。



 また、天恵緑汁の材料は何がいいのか、定まっていませんが、「生長の早いものの成長点」や「豆科の葉」「果実」などで充分出きると思います。

 当日は、上記の条件を言って、何かの葉が集めてありましたので、それを利用して天恵緑汁の作り方の実習を行いました。こちらでは黒砂糖は白砂糖の3倍以上するという事で高いので、白砂糖(と言っても、三温糖のような感じの砂糖)で仕込みました。



 また、バナナの茎を刻んで、小麦のフスマ(米ヌカが手に入りにくいので)と土着微生物の元種と天恵緑汁を混ぜて仕込みました。

2009年3月30日月曜日

ブラジルへ行ってきました(1)

 3月2日より15日、ブラジルへ行ってきました。 

今回の訪問の第一の目的は、昨年研修生の受け入れを行ったJICAのプロジェクトの関連で、アマパ州アマゾン川流域における自然養豚の指導です。
 JICAのプロジェクトの本来の目的はアマゾンの森を守り、川岸住民の生活を向上させる事ですが、その森林の畑に放し飼いの豚が侵入してくるので、囲い込む必要が生じ、アマゾンの自然を守る養豚法として自然養豚が導入されることになったのです。

 写真のように、この辺では、豚は家の周辺を適当に歩き回っているのが一般的です。一生懸命掘っているのは、ミミズを食べるためです。











 この地域は海から500km.以上入ったアマゾン川の支流沿いですが、潮の満ち引きの影響で、一日に二回浸水します。また一年を通しても雨期と乾期がある地域なので、写真にように住居は高床式です。
 昨年の研修生として来日したのは、州政府が派遣した、日本で言えば農業改良普及所の所長及び部長にあたる人たちで、日本に来る前は、「糞取りをしないで、さらに発酵床がエサに変わる」と聞き、信じなかったそうです。ところが、日本に来て実際に自然養豚の豚舎を見て驚いたそうです。帰国後さっそく村の人達を集めて講習会を何度か開き、豚舎が建てられました。今回は子豚が導入されたので、見に来て欲しいという事で行くことになりました。本当は趙先生を案内したかったのですが、出来ませんでした。

 アマゾン川は想像以上に広く、海のようでした。いつも川風が吹き渡っているので、常夏と言っても、とても過ごしやすかったです。












船で各家を回りました。案内してくださったのは、JICAのアグロフォレストリー専門家である高松寿彦氏で、同行したのはアマパ州森林院長、州農業改良普及所技術者など7名です。










 写真は、その時の船です。桟橋に干してあるのはミリチ椰子で、殻が固いので特別な粉砕機で細かくして、豚のエサにします。


これは、さらに支流に入ったときに載った船外機付きボートです。これはJICAの持ち物です。スピード抜群で、揺れもなく、乗り心地は良かったです。








なんと言っても、ここアマゾンでは船が重要な交通手段です。

子ども達も小さな船を上手に操っています。日本で言えば自転車感覚です。学校もスクールバスではなく、専用の船が送り迎えします。

小さな豚舎に子豚が2~4匹入っていました。定期的に川の増水があるので、住居と同じ高床式です。そこに発酵床を作ったのです。






 エサは周囲にある果実や種、バナナの葉や茎などです。色々問題はありましたが、とりあえず発酵床は臭いもなく順調でした。
 バナナの茎や葉は、そのままだと豚はあまり食べませんが、発酵飼料にするとよく食べるようになります。写真はその実習の様子です。

2009年2月21日土曜日

「稲の旋律」主人公役新妻聖子さんを励ます会


 2月17日、福岡市で「新妻聖子さんを励ます会」が開かれ、出席してきました。当協会の千葉県会員である土屋喜信さんをモデルにした小説「稲の旋律」が映画化されることになり、主人公役に新妻聖子さんが決定しました。

 物語は母親の期待に応えられなくなり、また周囲との人間関係にも悩み、引きこもりになってしまった女性が、自分の気持ちを書いた手紙をビンに入れて流したものを、農家の青年が拾い、文通が始まるという導入部分から始まります。小説は手紙のやりとりで書かれためずらしい構成です。
 自然や農業と接することによって、主人公の心が解放されていきます。自然や農業の持つすばらしさを詠った物語だと思います。とかく農業というと「きつい」とか「後継者がいない」とかマイナスイメージで語られる事が多い中、農業のプラスイメージを伝える良い企画だと思っています。

 新妻聖子さんはミュージカル女優として有名で、この日も博多座で上演されている「ミス・サイゴン」の主人公キムを演じて、その後かけつけてくださいました。
 集まったのは、福岡市内の「教育を考える会」や「子ども劇場」「新婦人」「命の電話」「不登校や引きこもりを考える会」など様々な団体の方たちでした。熊本、長崎、大分からも来られていました。
 私は行きがかり上(?)花束を渡す役となり、新妻聖子さんに手渡し、ご覧の様に写真もとってもらいました。
 参加者の方々が自己紹介と新妻さんを励ます言葉を述べた後、新妻さんから、この映画に対する意気込みを聞かせてもらいました。
 原作の本は一日で読んでしまったそうです。ひきこもりの経験はないが、同世代の女性として共感する部分も多い、また、今ミス・サイゴンでは母親役をやっているので、主人公の母親の気持ちも深く考えてしまった。主人公がひさしぶりにご飯を食べて感動するシーンのために、監督にご飯絶ちをするように言われているので、やるつもりだ、との事。
 どんな演技を見せてくれるか楽しみです。

2009年2月5日木曜日

養豚勉強会がありました(2)

養豚から食肉加工まで

 豚舎の見学の後、中津川ぞいの旅館「こまや」で勉強会が開かれました。松下さんより、さらに詳しく全体の経営内容の説明がありました。現在養豚は母豚約300頭の一貫経営。エサは非遺伝子組み換えの大豆やトウモロコシを使用しています。味を良くするためサツマイモを使用し、肉骨粉は使用しないなど安全性にはこだわり、独自の指定配合をしています。
豚肉は同じく松下さんが経営する「有限会社中津ミート」で加工され、テーブルミートやハム・ソーセージになって販売されています。ハム・ソーセージは全て無添加で製造されており、関東を中心に生協や有機農産物の流通業者に出荷されています。
 おいしい無添加ハムを作るために「温屠体」という屠畜場で処理されたものをすぐ加工する方法を取っています。リン酸塩など発色剤や保存料をしようせず、さらに大豆タンパクも使用しない方法で、ドイツでは伝統的な製法だそうです。松下さんはハム・ソーセージの本場ドイツで製造方法を勉強しました。

養豚専門型経営の自然農業豚舎として

 参加者の方から、松下さんの新しい豚舎について感想や意見が出ました。今まで自然農業協会が推奨する自然農業豚舎は、趙漢珪先生が薦める母豚30頭の一貫経営で、米や果樹などとの複合経営を想定したものです。しかし、現実には今回の松下さんの場合のように、もっと大きな規模で養豚を専門とする農業経営もあります。むしろ日本ではその方が多いのではないでしょうか。その様な場合の一つのモデルとして考えたらどうかと思います。どの様な議論が出たか一部をご紹介します。

発酵床についての議論

瀬戸「まず、床材として使用している植木の剪定枝のチップが大き過ぎる気がします。大きいと微生物がそれを小さく分解する方に力が行ってしまって、発酵が遅くなっている。家畜用ミネラルA液を入れたら発酵が全然変わります。飲ませたり、床に散布したりしてもいいし。」
 池「堆肥を作る様に考えたらいいと思う」
松下「そうです。堆肥舎の上に豚を飼うイメージで考えています」
志藤「いや、堆肥とは違うと思います。家では冬場は雪が吹き込んで床の管理が大変ですが、夏場はほとんど手をかけなくても大丈夫です。豚舎の床というのは表面部分の発酵層が大事なのではないでしょうか。床を掘ると50センチぐらい下は、まったく新しい、入れたときのままのオガクズが出てきます。下から全部切り返す必要があるでしょうか。むしろ、発酵していない、下の層の部分の役割も大事なのではないかと思うのです」
 池「つまりC/N比という事になる。窒素分の補給が大事では私の地域では乳牛の牛舎に、近くの競馬場から持ってきたオガクズを入れています。もどし堆肥もいいと思う」
瀬戸「今までの豚舎から堆肥を持ってきたらどうでしょうか。母豚舎から糞を持ってきてやると子豚が安心するという事もあるし。発酵層はいわばふとんみたいなものだから」
 等等、発酵について語りだすと、皆一家言持っているのが自然農業の会員です。まだ、豚舎に豚の導入が始まったばかりで、発酵床も始めたばかりなので、今後豚舎が全部豚で埋まってどうなるか、「やってみないとわからない部分が多いと思ってます」と松下さん。そうしたらまた勉強会を開く事になりました。

 中津ミートを見学

 翌朝、中津ミートの工場を見学しました。松下さんとは付き合いが長く、今の工場になる前の小さな工場も知っている私にとってはこの工場は大きいと思うのですが、従業員の方も増えて、それぞれのパートで忙しそうに働いて隙間をぬって見学させてもらっていると、松下さんが「手狭なのでもっと大きくしたい」と言うのも肯けます。
 枝肉がぶらさがっている冷蔵庫から始まって、脱骨、部位別にカット、スライスしてパック詰め、と作業工程にそって見学しました。「自然養豚の豚肉はしまりがよくて、とてもいい肉が出来ます」と松下さん。今回見学した新しい豚舎の前に小さめの自然養豚の豚舎を建てているので、そういう感想を話してくれました。

 次はベーコンや焼豚などを作る燻燃機に始まり、ウインナーの製造過程の見学です。機械はドイツ製が多いそうです。「いい物を作るには、やはり機械もいい物を揃えないとだめ」との事。
 最後のパッキングの部屋は遠くから眺めました。無菌室という事で部外者は立ち入り禁止なのです。衛生面では非常に細かく神経を使っていました。さらに大きな工場を作るときは、見学コースを別に作って、製造過程がわかるようにし、小学生などを受け入れたいと松下さんは言いました。夢はつきないようです。
写真は左から松下さん、瀬戸さん、湯浅さん

2009年2月4日水曜日

養豚勉強会がありました



 1月27日28日に神奈川県愛川町で自然養豚勉強会が開かれました。なかなか現場を離れにくい畜産農家にとって、勉強会開催は難しいのですが、今回は当協会の監事でもある松下憲司氏が新しい豚舎を建てたので、その見学を兼ねて勉強会を開こうということになったのです。当初予定していた趙漢珪先生は残念ながら来られませんでしたが、8名の参加で開催されました。











猛烈な反対運動にも負けず

 まずは豚舎の見学です。養鶏場の跡地を整地して建てられた豚舎ですが、敷地面積は一町5反と広々としています。総工費2億の大きな豚舎です。ここで肥育豚を3,500~4,000頭飼うことが出来るそうです。天井が高くて明るいので、外観はまるで体育館みたいです。
 松下さんの話によると、建設までには大変な苦労があったそうです。それは地域の人たちによる猛烈な反対運動です。この日はもう撤去されてありませんでしたが、敷地周辺には「悪臭追放」だの「公害反対」といった類の看板がいっぱい立っていたそうです。法的な手続きには何の問題もないにもかかわらず、愛川町の町長まで入って、組織が作られ、ときには会社の周りをデモ行進されたこともあったそうです。
反対派の人たちとの話し合いも何度も持たれたそうですが、「話し合いではなく、一方的に文句を言われる吊るし上げの会の様だった」と松下さんは言います。いくら今度建てる豚舎は臭いがしないという話をしても、全く信用されません。浄化槽には限外濾過装置を設置して、真水に等しい水にして流している程、環境には最大限気を使っている話をしても聞いてもらえません。それは松下さんの豚舎だけでなく、周囲には何万羽という大きな養鶏場もあり、長年に亘って悪臭を漂わせていたからです。
 そしてついにはこの問題が議会にまでかけられる様になったのですが、「有難いことに友達が協力してくれて」県知事の「神奈川県は畜産を振興する」という回答をもらい、一件落着となったのです。今では町長も「この豚を町の特産品にする」と言っているそうです。それにしても松下さんの「いい豚を育てて、おいしい肉やハムソーセージを作って消費者に供給するんだ」という強い意志がなければ、とても出来なかった事ではないかと思います。













広々とした豚舎


 そういう意味でも松下さんは、この新しい豚舎の発酵床には力を注いでいます。建設前に趙漢珪先生にアドバイスをもらい、「土と縁を切ってはいけない、コンクリートに穴を開けたら」との事で、発酵床の下のコンクリートには穴があけられています。


 この日は三日前に入ったばかりというSPF豚の子豚が100頭、広い発酵床の豚房を駆け回っていました。自然農業で薦める農家型用豚舎は一豚房の面積は9坪(1m.幅の通路を含む)で、20頭が基本ですが、この豚舎は肥育前期用の豚房が240㎡、後期用の豚房が320㎡と8~10倍の広さです。前期、後期併せて14豚房あり、250~300頭ずつ入れます。えさ場はコンクリートになっており、ウェットタイプのエサが給餌器から出ていました。えさ場にはスマートソートという豚が出荷に適した体重になったら、自動選別して別枠に集めることのできる装置が設置されていました。これで出荷時の重労働から解放されると松下さんは喜んでいました。


















発酵床を作る


 発酵床は山から土着微生物を採取してきて、米ヌカで元種を作り、それにオガクズや剪定枝のチップなどを混ぜ、自然塩と天恵緑汁、アミノキングの希釈液等を混合して発酵させて作っています。その発酵床を作っている豚舎の一角へ行ってみました。
 写真のように大きなスクリュー型の棒が2本、部屋の中を回転しながらゆっくり移動していきます。発酵を促す「切り返し」作業を機械で行っているのです。下からは空気がブロワーで送られるようになっており、発酵を促す仕組みです。
 見学に来た参加者の方々が各自、床材を取って匂いを嗅いだりして発酵の状態を見ます。この機械は堆肥舎で使用されているものを改良したものです。ここで発酵させて、豚房に運びますが、今後は定期的に切り返し作業を行う期間についてはこれから研究するとのことです。
 松下さんは「これだけの設備をしても、一般の豚舎が豚一頭当たり6万円。内排水の浄化設備分が1万円。ここは5万円だから返って安い。浄化設備のランニングコストもかからない」と言います。「いずれ落ち着いたら、地域の反対運動をしていた人たちを招待して、豚肉をたらふく食べてもらいたいです」と楽しそうに語っていました。

2009年1月30日金曜日

カキの剪定講習で韓国へ行ってきました



 1月13日~15日、カキの剪定講習会で韓国へ行ってきました。今回は自然農業の関係ではありませんが、韓国の自然農業協会の会員でもある密陽の甘柿農家李世榮氏を通して通訳の依頼があり、福岡県杷木市の小ノ上喜三(おのうえ よしみつ)氏による講演と剪定実習を行うというものでした。主催は慶尚南道農業技術院で本部は晋州(チンジュ)にあります。今回はその管轄内の宜寧(ウィリョン)、金海(キメ)、密陽(ミリャン)の三ヶ所を三日間で回りました。



 空港で出迎えたのは、今回渡韓する前に何度も連絡を取り合った農業技術院の職員鄭容仁さんです。彼は日本の千葉県の農業試験所にいたこともあり、かなり日本語も出来、日本の農業事情にも詳しい方でした。晋州の本部にまず案内され、甘柿専門で農学博士の黄甲春(ファン カプチュン)氏から管内の状況についてお話しをうかがいました。 上の写真は農業技術院の玄関前で小ノ上さんと鄭さんです。


 その話によると、韓国の甘柿の生産地はほとんどこの慶尚南道に集中していますが、平均気温は14度という事です。福岡では15~16度だそうですから、無霜期間も日本より一ヶ月も短い韓国は、そういう意味で栽培条件は日本に比べ悪いという事になります。但し、年間降雨量が少ないので、日本よりも病気の心配が少なく、農薬の散布回数が少なくてすむようです。因みに小ノ上さんは平均10回かけるそうですが、この地域では平均8回だそうです。また夏から秋にかけての昼夜の温度差が大きいので、味を乗せるには有利なようです。















 小ノ上さんは雑誌「現代農業」にもなんども寄稿していますが、多収穫を実現する技術をもっています。反収3トン採り、と呼ばれています。その為には小ノ上さんは大事な事として五つの事をあげています。



1適正剪定
2早期摘蕾
3適正着果
4降雨量
5肥料





 中でも徒長枝の活用が大きな特徴です。普通は徒長枝を切ってしまいますが、小ノ上さんは残して結果枝にします。すると二年目で10個、三年目で23~24個、四年目では45~46個にもなります。5年で切り替えます。今までほとんど成らしていなかった中心部分からも収穫するわけですから収量がアップするわけです。小ノ上さんは「今まで1トン採っていた人が2トンとるのは簡単、でも2トン採っていた人でも2.5トンや3トンを採ることも可能」と言います。

 講演ではその様な話を黒板に図を書きながら、小ノ上さんは具体的に数字で表していきます。初めて聞く韓国の農家の人たちは、最初ふしぎな顔をして聞いていましたが、話を聞くにつれてだんだん興味がわいてきたようです。中には今までと全然違う考え方に抵抗を覚えるらしく、首をふりながら納得できないという風な顔の人もいます。

 しかし、現場で小ノ上さんが自ら剪定ばさみと鋸で枝を切りながら説明を始めると、やっと話の内容が伝わったようです。それでも小ノ上さんが「これは無駄な枝」「これは使えない」とどんどん切り落としていくので、実習場になった園主の人は少し不安な顔です。しかし、小ノ上さんが切り落とした枝を取り上げて、昨年着いた実の数を数えて「こんなに大きな枝だけど、25個しか採ってない。それよりこっちの徒長枝に成らせれば、これ一本で50個は採れる」と説明すると、納得した様子。これまでこんなに緻密に数えて確認したことがないようです。



 私も通訳をしながら、多収穫のためには剪定だけでなく、摘蕾のときに葉果比を考えて作業をしなければならない事など、他にもたくさんの事を学びました。