2011年11月17日木曜日

韓国の自然農業を視察 6

加工、流通、食堂まで経営、自然養豚





 最後に訪ねたのは全羅南道の西海岸にある務安(ムーアン)市の姜大容(カン・デヨン)氏の豚舎です。入り口には親環境農業認証の看板がありました。日本のJAS認証ではまだ畜産はありませんが、韓国ではもうあります。ここはエサに抗生物質を使っていないということで認証を受けています。




 カン・デヨンさんは42歳と若くてエネルギッシュです。現在豚の飼育頭数は母豚12頭と少ないのですが、仲間の自然養豚農家と組んで、肉の加工、流通、食堂まで経営しています。インターネット販売を始めて、現在寝る間もないくらいだそうです。


エサは以前自家配合していましたが、現在は忙しくてそこまで手がまわらないそうです。
「自然養豚」 の技術をなんとか残したいという思いでやっているそうです。


 豚舎の臭いがないのでドイツ人見学者の方々はまた驚いていました。発酵床のすごさです。




 分娩房では周囲に鉄棒を渡していました。これで母豚が寝るときの子豚の圧死がほとんどないそうです。

 これが、肉屋さん。一般の小売とネットできた注文の宅配も行います。


















 隣がカン・デヨンさんの奥さんがやっている食堂です。私は一人釜山へ向かわなければならないので、時間の関係で残念ながらここで食べることができませんでした。次回はぜひ食べてみたいです。

2011年11月16日水曜日

韓国の自然農業視察 5

 さらに広がる谷城郡の自然 農業





 このブログでも何度か紹介しましたが、全羅南道の谷城郡では郡をあげて自然農業に取り組んでいます。その中心は農業技術センターです。ここに自然農業の実習室があり、土着微生物や天恵緑汁、漢方栄養剤など自然農業の資材作りの実習をしますし、出来た資材の保管もし、農家が必要なときに必要な量を取りに来ることも出来ます。また、私たちのような見学者を受け入れているので、自然農業で使用するあらゆる資材がいつも展示されている場所でもあります。







「自然農業資材 実習場」の看板




 ここで自然農業チーム長の趙京勲(チョー・ギョンフン)氏が谷城郡での取り組みについて話してくれました。








 「私が自然農業を取り組むようになったのは近くの固城郡での稲作を見て驚いたからです。確認するために私は22回固城郡へ通いました。そして確信したのです。」現在ではその固城郡よりもここ谷城郡の方が熱心に取り組んでいるようで、年々自然農業による栽培面積は拡大していっています。


 例えば、稲作は2009年には23㏊だったのが、2010年には50㏊、2011年は70㏊、来年度は200㏊に増える予定です。作物も米だけでなく、メロン、サンチュ、ニラ、イチゴ、リンゴ、ウメ、ナシと増えていっています。さらに豚、鶏、牛と畜産への取り組みも始まっています。 上の写真は趙チーム長が今年収穫した稲のほ場の中で、301粒あった穂について説明しているところです。一般的には80~110粒。自然農業では平均180~200粒あったそうです。











 趙チーム長は谷城郡が自然農業に取り組む必要性について以下のように話してくれました。



1 地域の資材が農業で活用されること。 2 低費用高効率で農家の自立能力を養うこと。 3 政府依存から脱却すること。 4 病害虫のない高品質で安全な農産物を生産すること。


 これらを達成するために技術センターとして、 自然農業の基本講習会、専門講習会を支援、資材製造を共同で行っているとのことです。


 最近では学術的な研究が進んでおり、韓国の有名な化粧品会社アモレが谷城郡のリンゴやナシの成分について詳しく調べているそうです。残念ながらその資料を手にすることが出来ません。この写真はナシの保存期間が長いことを説明しているものです。上の写真は韓国のSBSテレビで紹介された日本の「奇跡のリンゴ」。保存期間が長いと比べていますが、自然農業でも同じような現象が起こっているというわけです。左側が慣行農法のナシで、右側が自然農業のナシです。左の写真から順に2010年2月8日、3月3日、3月25日、4月7日です。慣行農法のナシは真っ黒になって腐っていていますが、自然農業のナシは少しずつ形が悪くなっていっているだけで、その差は歴然としています。これが自然農業の特徴でしょう。生命力の強さ。すばらしいですね。


 この後、見学者も資材作りの実習をしました。これは観賞用のリンゴ(ヒメリンゴ)を刻んだり、つぶしたりして黒砂糖をまぶして果実酵素をつくっているところです。








  外では水溶性カルシウムを作るためにカキガラを焼いていました。




 カキガラはそのままでは溶けにくいので焼きます。バーベキューのような要領です。表面が白くなるまで約2時間くらい焼くそうです。




 これをカメかビンに入れて玄米酢を入れます。この時注意するのは、カメの口までいっぱいいっぱいに玄米酢を入れないこと。反応して噴き出してしまいます。





 ドイツからの見学者を歓迎する横断幕まで準備されていました。ドイツ語で書かれた歓迎の言葉に一同感激です。








韓国の自然農業を視察 4

 自家配合のエサで自然養鶏10年 








 次に訪ねたのは順天市で養鶏をしている金桂洙(キム・ケース)氏です。私は順天農協は何度も訪ねていますが、キム・ケースさんのお宅は初めてでした。養鶏場は順天市のはずれ、少し高い所でした。










 キム・ケースさんは高校で社会科の教師をしていましたが、やめて11年、自然農業を始めて10年になります。現在鶏は1500羽。飼育は一人でやり、卵の箱詰め、発送などは手伝いの人を雇っています。










 鶏舎に来て、ドイツ人の人たちは皆、臭いのないことや鶏が静かな事に驚いていました。ドイツからのお客さんは農家の人は少なかったのですが、中に畜産関係の人や、教会の関係でこれから共同体として畜産を含む農業を始めようとしていて、関心が高かったようです。













 鶏舎の前にサツマイモのツルと葉が積んでありました。いもの収穫と一緒に持ってきて乾かしているようです。これといもをエサの中に15~20%入れるそうです。エサには赤土も入れるという事でそばに積んでありました。










 冬期用に葉を切ってそのままビニールの袋に入れてサイレージを作っていました。「一緒に米ヌカも入れるといいんですが、なしでも充分発酵します」冬場は青草類が足りないときは、大根やカボチャを使用するそうです。




 卵は一個500ウォン、一般の卵の倍以上で販売します。販売はすべて直接配達しているそうです。


 最後にキムさんに何か問題点がありますかと訪ねたら「この十年間旅行に一回も行けていないことです」と言ってました。でもうれしそうに話していましたから、その代わり生活は安定しているということでしょう。

韓国の自然農業を視察 3

自然農業14年 楽園のようなカキ園





 次に訪ねたのは全羅南道潭陽(タミャン)の羅相采(ラ・サンチェ)氏のカキ園です。ここは昨年の果樹・一般作物専門講習会のときにも見学ツアーで訪れた所で、最も印象深かった農場として記憶している所でした。忠清南道の瑞山からはかなり南へ下った所なので、訪ねたときはすでに5時を過ぎて薄暗かったのが残念でした。













 まず、山あいに広々と広がるカキ園に風景に心を奪われてしまいます。カキ園の下は緑の芝生に覆われています。ここへくるといっぺんで心が解放されたような気分になります。見下ろせば、遥か遠くまで町が見渡せます。ここへ来て過ごして、ここのカキを食べて病気が治ったという話にも頷けます。



 
































さっそく収穫されたカキをいただきながら、後継者として一緒に仕事をしている息子さんの説明を聞きました。カキは収穫にはまだ一週間くらい早いそうですが、とてもおいしかったです。





 ラ・サンチェさんは若い頃都会に出て仕事をしましたが、故郷に帰って農業を継ごうと思ったとき、自分の理想郷を目指して有機農業に取り組みました。無農薬栽培は1年目は良い成績でした。二年目もまずます、ところが三年目に入ったときには病虫害にやられて収量は70%減ーつまり3割しかありませんでした。


 そうしていたら趙漢珪先生との出会いがあり、自然農業を始めました。そして14年。「現在は完全な自然農業とは言えないかもしれませんが、ある程度の所まで来ました。農薬は石灰硫黄合剤と殺虫目的で薬草液を散布しています」とのことです。薬草液とはヤマゴボウの根、イチョウの葉、ニンニクを焼酎に漬けて抽出した液です。ヤマゴボウ(韓国名チャリゴン)は以前、FAXネット通信でも紹介したことのある植物農薬です。







  販売先はハンサルリムという消費者意識の高いことで有名な生協です。消費者との交流も行っています。ここへはまるでピクニックにでも来るような感じで遊びに来るそうです。居心地が良くて泊まっていく人もいるとか。










 父親の目指した理想郷をこの息子さんが引き継いで、さらに発展させてほしいと思いました。




 これは韓国の国が認定する親環境農産物の認証農場の看板です。それに自然農業協会の認証もあわせて書かれています。




 趙先生の横で笑っているのは、一緒に同行した韓国の大学生で、現在ニューヨーク大学で勉強中。今回は自然農業をテーマに論文を書くという事で現場の取材を行っていました。 

2011年11月15日火曜日

韓国の自然農業を視察 2

干拓地で55ヘクタールの稲作 自然農業で克服

 今回実施するにあたって、基本的な自然農業の稲作法にプラスして行ったことは塩害対策でした。それは土着微生物を拡大培養するとき水分調整に30倍の海水を使用するということです。こうして塩分に強い土着微生物を培養したわけです。 こうして出来た土着微生物4番を反当150㎏撒きました。

 今年は雨が多かったことも幸いしたようです。一般的には長雨は困ったものですが、ここでは塩害の被害を少なくしてくれたようです。

 ただ、均平が完全でなかった為、低いところは水が深くなって、除草目的で入れたジャンボタニシが稲を食べてしまい、ところどころぽっかりと空間が空いてしまいました。
(しかし、のちに収量がわかったそうですが、まずまずの収量だったそうです)


 ここ現代瑞山(ソサン)農場は、日本の和牛にあたる韓牛も飼育している。韓牛は阿蘇で見られる赤牛によく似ている。すでに亡くなったが現代グループの鄭周永会長が北朝鮮に送った500頭の韓牛はこの農場から送られたそうです。



 ここでは、牛にやるワラを昔ながらの方法で蒸してやっている。とても健康で昨年韓国中で問題になった口蹄疫にもかからなかったそうだ。その飼育法を売りにして現代デパートで普通の牛肉の2~3倍の価格で売っているそうです。


 今後、この瑞山農場で自然農業の取り組みが拡大されたら、自然農業で栽培された稲ワラをエサにして、さらにブランド力を高める計画をしているそうです。

2011年11月2日水曜日

韓国自然農業の現場を見学 1

干拓地で自然農業稲作





去る10月17日、18日に韓国の自然農業の見学ツアーに姫野が参加してきました。今回はドイツからの見学者のツアーのバスに同行させてもらっての見学でした。



自然農業の国際的普及はどんどん進んでいて、最初はアジアを中心に広がっていましたが、その後アフリカ、ハワイ、アメリカ本土、ヨーロッパまで広がっているということです。その土地のあるものを活用して付加価値の高い農産物を生産するということですから、どんな環境の地域でも実践できるわけです。

趙漢珪先生はクリスチャンで、自然農業のヒントは90%聖書から得たと言っている程ですが、キリスト教を通したネットワークもあって、海外でキリスト教を布教している牧師さん達が地域の農業問題を解決するために、この自然農業に注目していて、自ら基本講習や専門講習を履修し、赴任地で広めるという場合が多いのです。



 今回もドイツのブレーメンから来たメンバーだが、教会の牧師さんや教会で通訳などしている韓国人が一緒に来韓していました。お陰で、私はまったくドイツ語は解りませんが、現地に住む韓国人の方にいろいろ伺うことで、ドイツの様々な情報を得ることができました。



 まず訪ねたのは、忠清北道瑞山(ソサン)というところ。 ここは韓国の財閥現代グループの現代建設が1979年から、「食糧増産」「国土拡大」を目的に大干拓事業が行われたところです。 この写真は本部の建物です。正面には「変化と確信、超一流企業!」と書いてありました。





これが、干拓事業の現況です。A地区、B地区と分かれていて、上の段が現代が所有している所で、下の段は一般所有、個人に分譲したところです。三段目は湾を堰き止めて出来た淡水湖です。単位は万坪ですから、全部合わせた面積は約15,500ヘクタールになります。





 稲作を始めたのは1986年で、最初は試験的に行われました。本格的に始まったのは1995年ということです。





 ところが干拓地なので、塩害の問題が発生しました。稲が黒くなってしまうのです。収量は半分以下の場合もあります。特に低い地域は激しく、5分の1しかない場合もあったそうです。



 そこで、趙漢珪先生の自然農業研究所に相談したところ、土着微生物を活用すれば充分できると言われました。


 自然農業研究院では、今年これを証明してみせるために、55ヘクタールの田んぼや機械を借り、自然農業を実施しました。そしてみごとに克服してみせたのです。しかも趙漢珪先生と娘さんの趙珠榮さん、それと現地の担当者の3人で。忙しいときは人を頼んだそうですが、基本的には3人で全て行ったそうです。