2008年8月31日日曜日

新版「おばさんのふしぎな畑」が発行されました


vol1とvol2が合本されました

 「おばさんのふしぎな畑」が発行されて10年以上たちました。お陰様で多くの皆様にお買い上げいただきまいた。この度増刷するにあたって、vol1とvol2を合わせ、新作も入れて再編集しました。サイズも少しコンパクトになってA5版です。「土着微生物を活かす」や「天恵緑汁のつくり方使い方」などと同じサイズです。208ページで1200円なので、お得です。
 改めて読み直してみると、自然農業の考え方や食べ物の大切さなどがよく分かるように丁寧に描かれています。さすが石橋さんですね!
 子どもや消費者の人対象に書かれたものですが、いろんな人に読んでほしいと思っています。販売促進のため、事務局では今まで自然農業に関心を持ってくださった各界の方々に謹呈いたしました。売れるといいなあ!

2008年8月17日日曜日

ブラジルの研修生受入れを行いました







ブラジルの研修生受入れを行いました


JICAのブラジル事業に関連して、7月2日より二人のブラジル人研修生の受入れを自然農業協会で行いました。今まで韓国との交流を中心に中国やタイなどアジアの国々との交流は行なってきましたが、遥か遠く地球の真裏にあるブラジルとの交流は初めてです。また、JICAの事業に協力するのも初めての事でしたが、自然農業ならばどんな国、地域においても応用がきくので、必ず何かの役に立つだろうと確信を持っていましたので協力することにしました。約3週間に亘って各地で行なわれた研修の様子を報告します。(姫野祐子)

アマゾンの森を守り、地域住民の生活を向上させる

JICAの事業はブラジル北部アマパ州アマゾン川河口近くの川岸に住む人たちを対象とし、生活の向上とアマゾンの森の環境を守る事を目的としています。事業の対象地域はバルゼア(氾濫原)と言われ、雨季にはアマゾン川の水位が高くなり、乾季でも一日に二回水位が上がるという所で、住民は高床式の住居に住んでいます。
これまでの事業で、森の木を材料にして家具などを加工する技術の指導や、焼畑農業をやめて森を守るために、多種多様な木を守り、育てるアグロフォレストリーの指導などが行われてきました。
ところが、住民の放し飼いの豚や鶏が畑や苗木を荒らしてしまうという問題が起こってしまい、畑に囲いをしていたのですが十分ではありませんでした。豚は近親交配の害で育ちが悪く、肥育も遅い。そこで効率の良い舎飼いの養豚法が求められていました。そうした中、自然農業の発酵床豚舎が注目されました。これならアマゾンの自然を守りながら、豚を飼うことができるし、効率的な養豚法で住民の生活の向上も図れると期待されたわけです。その導入を薦めたのは、ブラジルに移民して三十五年という高松寿彦さんという方で、JICAのこの事業でアグロフォレストリーの専門家として対象地域で指導をしている方です。友人から紹介され、舎飼いにするなら自然養豚がいいと思い、JICAに研修生の派遣を強く要望し、認められたのです。

ブラジルは広い!

今回来日したのは、事業対象地域で営農指導しているアマパ州農業改良普及所の責任者の方でマルコスさんとアントニオさんの二人です。
それにしてもブラジルは広い!面積は日本の二十三倍もあり、そこに一億六千万人の人が住んでいます。二十六の州と政府直轄地で成り立っていますが、州によって事情が全然違います。サンパウロを中心として南の方は大都市があり、気温もそれ程高くはありません。中間部は広大な農地が広がっています。それに比べアマゾン川周辺地域は熱帯雨林気候で、年間を通して暑く、湿度の高い地域です。経済的にも遅れており、就学率も低い地域です。一言でブラジルと言っても地域によってこんなに事情が違うのです。
研修に来たお二人が管轄している地域は、面積が九州の二倍くらいもあります。一通り回るだけでも一ヶ月は有にかかってしまいます。一〇〇ヘクタール以下の農地では農業としてカウントされないくらい小規模なのだそうです。スケールの違いに戸惑うことが多いです。
さらにJICAの事業地域の事情が日本とは全然違うので、どう応用していくかが問題です。例えばブラジルでは主食が米と豆ですから稲作は行われていますが、この地域にはないので米ヌカやワラは他から持ってくるしかありません。あるいはトウモロコシやバナナの茎などで代用する方法です。黒砂糖の価格も一般の白砂糖の六~八倍もするので、天恵緑汁等で気軽に使うわけにはいきません。その代わり、アマゾンの豊かな自然資源は家畜のえさには最適です。すでに趙漢珪先生がインドネシアやマレーシアなど熱帯地域にも自然農業の普及を行なってきていますので、それらの国での実践事例などを参考にしながら、研修を行ないました。

自然農業の基本講習

 2日~4日までは八幡市のJICA九州センターで自然農業の基本的な講義を姫野が行いました。土着微生物の話は、人間にとって腸内微生物が健康にとって大事な事と同じく、健康な作物を栽培するためには畑の土壌微生物が大事で、中でも地域に昔から棲んでいた土着微生物が重要だと説明しましたが、よく理解してくれたようです。それにしても日本や韓国などアジアには発酵食品が多いので、その知恵を農業に活かすという事は世界に誇れる発想だと思います。
 また、自然農業の特徴でもある豚舎や鶏舎のしくみは非常に関心を持って聞いてくれました。ブラジルでは大規模の企業型畜産が一般的なようです。自然の恵みを活かした、家族型畜産による質の良い畜産物の生産はこれから注目されるようになるかもしれないそうです。
 しかし「自他一体の原理」など、自然農業の哲学的な背景の話を理解してもらうのは難しかったです。三気二熱四体の「気」とか、「無」から「有」を作る「色即是空、空即是色」など、東洋思想を下敷きにした自然観、生命観はブラジルの人には馴染みにくいようでした。それでも、自然を大事にし、環境を守る気持ちは同じなので、それなりに理解してもらったようです。
 講義はJICAが派遣したポルトガル語の通訳を通して行いましたが、細かいニュアンスが伝わったかどうか、もどかしさを感じました。国際交流の難しさの一つです。細かい事より、核となる本質部分を確実に伝える事が大事なのだという事を学びました。
5日は福岡県桂川町の古野隆雄さんを訪ね、合鴨水稲同時作の田を見学しました。畜産と稲作の組み合わせがおもしろかったようです。また、古野さんは九州大学農学部を卒業されたそうですが、最近論文を提出して農学博士になられました。手伝っている息子さんたちもそれぞれ大学を卒業されていました。それを見て「農学博士が農業をやっているなんてブラジルにはいない」と驚いていました。

土着微生物の活用を学ぶ

7日~11日は天草の山下守さん宅で土着微生物や天恵緑汁の実習及び養豚の研修を行いました。
 山下守さんは14年前に自然農業の基本講習会を受講し、翌年には韓国で行われた畜産専門講習会を受講、帰国してからさっそく自然養豚式豚舎を建設し、自然養豚を始めました。日本の自然養豚の先駆者にあたる人です。今回ブラジルからの研修生を受け入れるにあたり、なるべく南の方で実践していて、経験の長い方にお願いしたいと思い、協力していただくことになりました。
 山下さんは母豚三十頭の一貫経営で、肥育豚舎を自然農業式にしています。豚舎の床はサラサラの部分と湿ってドロドロの部分があります。土が豚に付いて黒くなっていて、見た目は悪いのですが、夏場は少し湿っていた方を豚は好むそうです。あまりドロドロすると表面をかぎとって外に出します。今回はその作業も研修中に出来るように計画されていました。
 到着した日は山下さんの豚舎や牛舎を見学した後、近くに住む中井俊作さんのお宅を訪ね、不耕起の田んぼや畑を見学しました。中井さんは自給自足にこだわって暮らしている人で、なるべく電気やガスを使いません。夕食をごちそうになりましたが、ご飯も七輪で炊いていました。持参した山下さんの豚肉と、中津ミートの無添加ウィンナーで焼く肉パーティーです。ブラジルでやるシュハスコみたいという事でマルコスさんやアントニオさんも大喜びでした。



 翌日はまず裏山に仕掛けておいた杉のお弁当箱を見に行き、土着微生物が十分繁殖していたので、持ち帰って黒砂糖に漬け込む作業を行いました。
 杉のお弁当箱に仕掛けたご飯には白い菌が主に繁殖していて、少し黒い菌もありましたが、これで十分との事です。丁寧に黒砂糖をまぶしながら、かめに漬け込みました。






次は天恵緑汁の実習です。時期的にヨモギやセリなどもないのでカボチャでやりました。私はカボチャの天恵緑汁は初めてでしたが、山下さんは夏場によく利用するそうです。汁がいっぱい採れるので良いその事です。漬け込むためにカボチャを包丁で刻みましたが、堅いので大変です。でも一生懸命アントニオさんが十個あまりのカボチャを刻んで、黒砂糖をまぶし、かめに漬け込みました。
 また、お米のとぎ汁を三日前から置いておいたものに十倍の牛乳を注ぎ、乳酸菌血清作りもしました。五日もすればきれいに分離した様子が見られるはずです。
 何しろ暑いので、休憩しながらの作業です。ちょうど山下さんが栽培する河内晩柑が熟していて、休憩のときには果汁たっぷりのみかんをいただきました。さわやかな河内晩柑がのどを潤してくれました。研修が終わった後の感想でマルコスさんが、この河内晩柑の味が忘れられないと言っていた程です。
 山下さんは豚舎や牛舎から出る堆肥をデコポンやこの河内晩柑の畑に入れています。木がとても健康で、たくさん実らせても充分持ちます。「土着微生物の力だと思います」と山下さん。
 
午後からはエサ用にする土着微生物の配合作業をしました。混合機に米ヌカやフスマなど材料を投入し、土着微生物や天恵緑汁を入れました。天恵緑汁の材料はスイカでした。混合機から取り出すと、山にしました。翌日はこの山を切り返しながら場所を横に移動させます。早くもよい香りがただよっています。この切り替えし作業を一週間くらい行えば完成です。完成したものはビニール袋に入れて保管しておきます。
 飼料にこの土着微生物を混入することで、山下さんの豚は病気もせず、いつも健康です。豚舎の発酵床も食べますが、飼料からも土着微生物をとると、消化も良く、健康に良いようです。










ブラジルは遺伝子組み換え食品を徹底拒否


 16日、17日は関東方面で、大地を守る会の物流センターとらでぃっしゅぼーやを訪ね有機農産物の物流及びブランド化の研修を行いました。ブラジルにはこの様な有機農産物の宅配システムはないそうです。
この訪問中に安全な食品を求める消費者について話している中で、ブラジルでは遺伝子組み換え食品を徹底して拒否しているという話を聞きました。それは以前パラグアイを通して、ブラジルでは禁止されている家畜の成長促進剤が入るという事件があったそうです。なぜその事件が明るみになったかというと、その成長促進剤を魚の養殖に使った所があって、その水槽に胸まで浸かって働いていた従業員の男性の胸がふくらんで女っぽくなってしまい、これはおかしいという事で大騒ぎになり、バレてしまったそうです。その生長促進剤を使用した牛などは全頭廃棄処分されたのはもちろんです。そんな事があったので、「遺伝子組み換え食品なんか食べたら尻尾が生えてしまう」などと言って、徹底的に拒否されたそうです。家畜の飼料として輸入している大豆やトウモロコシをほとんど輸入に頼っている日本としては、かなり意識的に選択しないと遺伝子組み換えでないエサを食べて育てている畜産物を口にすることはできません。自国で全て生産できるブラジルはうらやましい限りです。







養豚から加工まで一貫経営する中津ミート

 18日は神奈川県愛川町の中津ミートで研修しました。社長の松下憲司さんがバス停まで迎えに来てくれ、さっそく車で新豚舎の建設現場へ行きました。ここには自然農業の知恵を生かした発酵床の豚房を作り、管理は切り返し作業や出荷の体重管理まで全て機械で行う近代式豚舎です。現在の経営規模をほぼ二倍に拡大する計画だそうです。
次に松下さんが経営する海老名畜産の見学をしました。母豚二九〇頭の一貫経営です。離乳した子豚が入る育成豚舎が自然農業式の発酵床です。古くなった豚舎は今後立て替えて分娩舎にする予定だそうです。悩みはエサの高騰もありますが、もっと深刻なのは遺伝子組み換えフリーの大豆やトウモロコシの輸入量が減っており、いつまで使用し続けられるかわからない事だそうです。ブラジルには遺伝子組み換えではない大豆やトウモロコシを生産していると聞いて、強い関心を持ちました。
お昼は近くのブラジルレストランで食べました。この近くは大きな工場もあり、日系ブラジル人が多く住んでいるそうで、ブラジル食材のお店もありました。久しぶりのブラジル料理に二人は喜んでいました。ブラジル料理はご飯に豆を煮たものが基本で、それに鶏肉や豚肉の焼いたものが添えられています。飲み物はめずらしいトロピカルフルーツのジュースです。日本人には馴染みやすい料理だと思いました。

 午後からは中津ミートの見学です。有限会社中津ミートは一九七九年に海老名畜産の子会社として設立され、現在は年商十億円という大きな会社です。海老名畜産で生産された豚を全てテーブルミートやハム・ソーセージに加工しています。午前中に出荷した豚が屠畜場からすぐ送られたものを温屠体というそうですが、それを加工しているので、決着剤なども入れないで無添加ハム・ソーセージが出来るそうです。そこが他の無添加ハム・ソーセージとは違う、中津ミートの大きな特色です。
工場の中を松下さんに案内してもらいました。松下さんは加工技術をドイツで学んだそうです。ここで使用している加工機械もドイツ製が多いようでした。金曜日の午後でしたので、作業はほぼ終わっていましたが、何人かの従業員の人たちが忙しそうに働いていました。
現在中津ミートでは、前日見学した大地を守る会やらでぃっしゅぼーやを始め、各地の生協などに出荷しています。現在でも足りない状況で、中津ミートも工場の規模拡大を計画しているそうです。

自然養鶏を研修
 
21日は群馬県沼田市の子持自然恵農場で研修を行いました。農場長の瀬戸哲夫さんが今回の研修の為にいろいろと準備をして待ってくれていました。鶏舎を案内して、自然養鶏の鶏舎の仕組みを説明した後、準備した育雛箱を使って丁寧に育雛技術を説明してくださいました。









 雛の成長に合わせて生活する空間を広げたり、エサ箱をだんだん大きなものに取り替えたり、ねずみなどの小動物よけに箱の下にもネットを張るなど、鶏の立場に立って設計されています。隅々にまで細かい意味があり、それらの技術の積み重ねが、健康を守り、産卵期間を長くして、経済的効果をもたらすという事を学びました。


 次にエサの配合作業も実演して見せてくれました。全て安全な自然の材料だけでできるえさにマルコスさんはしきりにびっくりしていました。何度も「ビタミン剤などの添加物は入れないのか?」と訪ねます。「ビタミンは青草を充分やすので入れる必要がない」と瀬戸さんは言います。また「微生物を入れて発酵させないのか?」との質問には「床を発酵させるのが基本です。発酵飼料は若い鶏にはやりません。自分の胃腸の中で発酵させるためです。年取った鶏にはやる事もあります」しかし青物のない冬場は、夏場に刈って作っておいたヨシなどで作ったサイレージはやるそうです。

午後からは近くの公民館でさらに詳しく自然養鶏について講義を受けました。写真やイラストのパネルも動員しての熱心な講義でした。自然養鶏がそのままJICAの事業対象地域で実践されるかどうかわかりませんが、氾濫原ではない別の地域で今回の研修が役に立つかもしれないとの事です。
今回の研修生受入れによって、外国人に自然農業を講義する難しさを知りましたが、同時に土着微生物を活かした農業はどんな国の人にでも理解してもらえる農法だと確信しました。
最後の研修評価会で、マルコスさんは感想として「アジア的思想を理解するのが難しかった」という事と「微生物のすばらしさについて学ぶことが出来た」という事と「帰ってから他の人に話すためには、学術的な裏付けがほしい」という事を言われました。今後の課題です。現地でモデル豚舎が出来たら、今回受け入れてくださった皆さんを誘って、ブラジルツアーを実施したいと思いました。実践してみてどうだったか、色々な話を聞けるのが楽しみです。