2009年2月21日土曜日

「稲の旋律」主人公役新妻聖子さんを励ます会


 2月17日、福岡市で「新妻聖子さんを励ます会」が開かれ、出席してきました。当協会の千葉県会員である土屋喜信さんをモデルにした小説「稲の旋律」が映画化されることになり、主人公役に新妻聖子さんが決定しました。

 物語は母親の期待に応えられなくなり、また周囲との人間関係にも悩み、引きこもりになってしまった女性が、自分の気持ちを書いた手紙をビンに入れて流したものを、農家の青年が拾い、文通が始まるという導入部分から始まります。小説は手紙のやりとりで書かれためずらしい構成です。
 自然や農業と接することによって、主人公の心が解放されていきます。自然や農業の持つすばらしさを詠った物語だと思います。とかく農業というと「きつい」とか「後継者がいない」とかマイナスイメージで語られる事が多い中、農業のプラスイメージを伝える良い企画だと思っています。

 新妻聖子さんはミュージカル女優として有名で、この日も博多座で上演されている「ミス・サイゴン」の主人公キムを演じて、その後かけつけてくださいました。
 集まったのは、福岡市内の「教育を考える会」や「子ども劇場」「新婦人」「命の電話」「不登校や引きこもりを考える会」など様々な団体の方たちでした。熊本、長崎、大分からも来られていました。
 私は行きがかり上(?)花束を渡す役となり、新妻聖子さんに手渡し、ご覧の様に写真もとってもらいました。
 参加者の方々が自己紹介と新妻さんを励ます言葉を述べた後、新妻さんから、この映画に対する意気込みを聞かせてもらいました。
 原作の本は一日で読んでしまったそうです。ひきこもりの経験はないが、同世代の女性として共感する部分も多い、また、今ミス・サイゴンでは母親役をやっているので、主人公の母親の気持ちも深く考えてしまった。主人公がひさしぶりにご飯を食べて感動するシーンのために、監督にご飯絶ちをするように言われているので、やるつもりだ、との事。
 どんな演技を見せてくれるか楽しみです。

2009年2月5日木曜日

養豚勉強会がありました(2)

養豚から食肉加工まで

 豚舎の見学の後、中津川ぞいの旅館「こまや」で勉強会が開かれました。松下さんより、さらに詳しく全体の経営内容の説明がありました。現在養豚は母豚約300頭の一貫経営。エサは非遺伝子組み換えの大豆やトウモロコシを使用しています。味を良くするためサツマイモを使用し、肉骨粉は使用しないなど安全性にはこだわり、独自の指定配合をしています。
豚肉は同じく松下さんが経営する「有限会社中津ミート」で加工され、テーブルミートやハム・ソーセージになって販売されています。ハム・ソーセージは全て無添加で製造されており、関東を中心に生協や有機農産物の流通業者に出荷されています。
 おいしい無添加ハムを作るために「温屠体」という屠畜場で処理されたものをすぐ加工する方法を取っています。リン酸塩など発色剤や保存料をしようせず、さらに大豆タンパクも使用しない方法で、ドイツでは伝統的な製法だそうです。松下さんはハム・ソーセージの本場ドイツで製造方法を勉強しました。

養豚専門型経営の自然農業豚舎として

 参加者の方から、松下さんの新しい豚舎について感想や意見が出ました。今まで自然農業協会が推奨する自然農業豚舎は、趙漢珪先生が薦める母豚30頭の一貫経営で、米や果樹などとの複合経営を想定したものです。しかし、現実には今回の松下さんの場合のように、もっと大きな規模で養豚を専門とする農業経営もあります。むしろ日本ではその方が多いのではないでしょうか。その様な場合の一つのモデルとして考えたらどうかと思います。どの様な議論が出たか一部をご紹介します。

発酵床についての議論

瀬戸「まず、床材として使用している植木の剪定枝のチップが大き過ぎる気がします。大きいと微生物がそれを小さく分解する方に力が行ってしまって、発酵が遅くなっている。家畜用ミネラルA液を入れたら発酵が全然変わります。飲ませたり、床に散布したりしてもいいし。」
 池「堆肥を作る様に考えたらいいと思う」
松下「そうです。堆肥舎の上に豚を飼うイメージで考えています」
志藤「いや、堆肥とは違うと思います。家では冬場は雪が吹き込んで床の管理が大変ですが、夏場はほとんど手をかけなくても大丈夫です。豚舎の床というのは表面部分の発酵層が大事なのではないでしょうか。床を掘ると50センチぐらい下は、まったく新しい、入れたときのままのオガクズが出てきます。下から全部切り返す必要があるでしょうか。むしろ、発酵していない、下の層の部分の役割も大事なのではないかと思うのです」
 池「つまりC/N比という事になる。窒素分の補給が大事では私の地域では乳牛の牛舎に、近くの競馬場から持ってきたオガクズを入れています。もどし堆肥もいいと思う」
瀬戸「今までの豚舎から堆肥を持ってきたらどうでしょうか。母豚舎から糞を持ってきてやると子豚が安心するという事もあるし。発酵層はいわばふとんみたいなものだから」
 等等、発酵について語りだすと、皆一家言持っているのが自然農業の会員です。まだ、豚舎に豚の導入が始まったばかりで、発酵床も始めたばかりなので、今後豚舎が全部豚で埋まってどうなるか、「やってみないとわからない部分が多いと思ってます」と松下さん。そうしたらまた勉強会を開く事になりました。

 中津ミートを見学

 翌朝、中津ミートの工場を見学しました。松下さんとは付き合いが長く、今の工場になる前の小さな工場も知っている私にとってはこの工場は大きいと思うのですが、従業員の方も増えて、それぞれのパートで忙しそうに働いて隙間をぬって見学させてもらっていると、松下さんが「手狭なのでもっと大きくしたい」と言うのも肯けます。
 枝肉がぶらさがっている冷蔵庫から始まって、脱骨、部位別にカット、スライスしてパック詰め、と作業工程にそって見学しました。「自然養豚の豚肉はしまりがよくて、とてもいい肉が出来ます」と松下さん。今回見学した新しい豚舎の前に小さめの自然養豚の豚舎を建てているので、そういう感想を話してくれました。

 次はベーコンや焼豚などを作る燻燃機に始まり、ウインナーの製造過程の見学です。機械はドイツ製が多いそうです。「いい物を作るには、やはり機械もいい物を揃えないとだめ」との事。
 最後のパッキングの部屋は遠くから眺めました。無菌室という事で部外者は立ち入り禁止なのです。衛生面では非常に細かく神経を使っていました。さらに大きな工場を作るときは、見学コースを別に作って、製造過程がわかるようにし、小学生などを受け入れたいと松下さんは言いました。夢はつきないようです。
写真は左から松下さん、瀬戸さん、湯浅さん

2009年2月4日水曜日

養豚勉強会がありました



 1月27日28日に神奈川県愛川町で自然養豚勉強会が開かれました。なかなか現場を離れにくい畜産農家にとって、勉強会開催は難しいのですが、今回は当協会の監事でもある松下憲司氏が新しい豚舎を建てたので、その見学を兼ねて勉強会を開こうということになったのです。当初予定していた趙漢珪先生は残念ながら来られませんでしたが、8名の参加で開催されました。











猛烈な反対運動にも負けず

 まずは豚舎の見学です。養鶏場の跡地を整地して建てられた豚舎ですが、敷地面積は一町5反と広々としています。総工費2億の大きな豚舎です。ここで肥育豚を3,500~4,000頭飼うことが出来るそうです。天井が高くて明るいので、外観はまるで体育館みたいです。
 松下さんの話によると、建設までには大変な苦労があったそうです。それは地域の人たちによる猛烈な反対運動です。この日はもう撤去されてありませんでしたが、敷地周辺には「悪臭追放」だの「公害反対」といった類の看板がいっぱい立っていたそうです。法的な手続きには何の問題もないにもかかわらず、愛川町の町長まで入って、組織が作られ、ときには会社の周りをデモ行進されたこともあったそうです。
反対派の人たちとの話し合いも何度も持たれたそうですが、「話し合いではなく、一方的に文句を言われる吊るし上げの会の様だった」と松下さんは言います。いくら今度建てる豚舎は臭いがしないという話をしても、全く信用されません。浄化槽には限外濾過装置を設置して、真水に等しい水にして流している程、環境には最大限気を使っている話をしても聞いてもらえません。それは松下さんの豚舎だけでなく、周囲には何万羽という大きな養鶏場もあり、長年に亘って悪臭を漂わせていたからです。
 そしてついにはこの問題が議会にまでかけられる様になったのですが、「有難いことに友達が協力してくれて」県知事の「神奈川県は畜産を振興する」という回答をもらい、一件落着となったのです。今では町長も「この豚を町の特産品にする」と言っているそうです。それにしても松下さんの「いい豚を育てて、おいしい肉やハムソーセージを作って消費者に供給するんだ」という強い意志がなければ、とても出来なかった事ではないかと思います。













広々とした豚舎


 そういう意味でも松下さんは、この新しい豚舎の発酵床には力を注いでいます。建設前に趙漢珪先生にアドバイスをもらい、「土と縁を切ってはいけない、コンクリートに穴を開けたら」との事で、発酵床の下のコンクリートには穴があけられています。


 この日は三日前に入ったばかりというSPF豚の子豚が100頭、広い発酵床の豚房を駆け回っていました。自然農業で薦める農家型用豚舎は一豚房の面積は9坪(1m.幅の通路を含む)で、20頭が基本ですが、この豚舎は肥育前期用の豚房が240㎡、後期用の豚房が320㎡と8~10倍の広さです。前期、後期併せて14豚房あり、250~300頭ずつ入れます。えさ場はコンクリートになっており、ウェットタイプのエサが給餌器から出ていました。えさ場にはスマートソートという豚が出荷に適した体重になったら、自動選別して別枠に集めることのできる装置が設置されていました。これで出荷時の重労働から解放されると松下さんは喜んでいました。


















発酵床を作る


 発酵床は山から土着微生物を採取してきて、米ヌカで元種を作り、それにオガクズや剪定枝のチップなどを混ぜ、自然塩と天恵緑汁、アミノキングの希釈液等を混合して発酵させて作っています。その発酵床を作っている豚舎の一角へ行ってみました。
 写真のように大きなスクリュー型の棒が2本、部屋の中を回転しながらゆっくり移動していきます。発酵を促す「切り返し」作業を機械で行っているのです。下からは空気がブロワーで送られるようになっており、発酵を促す仕組みです。
 見学に来た参加者の方々が各自、床材を取って匂いを嗅いだりして発酵の状態を見ます。この機械は堆肥舎で使用されているものを改良したものです。ここで発酵させて、豚房に運びますが、今後は定期的に切り返し作業を行う期間についてはこれから研究するとのことです。
 松下さんは「これだけの設備をしても、一般の豚舎が豚一頭当たり6万円。内排水の浄化設備分が1万円。ここは5万円だから返って安い。浄化設備のランニングコストもかからない」と言います。「いずれ落ち着いたら、地域の反対運動をしていた人たちを招待して、豚肉をたらふく食べてもらいたいです」と楽しそうに語っていました。